墨出しの単価が「見積を見ないと分からない」のはなぜか
「墨出し 単価」で検索して、金額が書いてあるページが見つからない。そう思って来られた方に、まずその理由から書きます。単価表が公開されないのは、隠しているからではなく、公開しても使えないからです。 そのうえで、見積を読み解くために何を見ればよいかを説明します。
なぜ「1人工いくら」が出てこないのか
墨出しの費用は1日単位の人工で組みます。ここまではどこも同じです。問題は、その1人工の中身と、必要な人工数が現場ごとに大きく動くことです。
同じ延床1,000m2でも、次の2つでは墨の量が数倍違います。
- 大空間の倉庫。柱スパンが大きく、間仕切りがほとんどない
- 病院やホテル。個室が並び、設備の取り合いが細かい
前者なら1人で1日かかるところが、後者では3人で2日かかることもあります。床面積は同じです。
さらに、地域によって交通費が乗り、宿泊が要る現場では宿泊費が乗ります。土日祝や早朝・夜間は割増になります。変数が多すぎて、単価表を出すと必ず実態とずれる。 だから電話で条件を聞いてから答える会社が多いのです。
裏を返せば、次の4つを伝えれば概算はその場で出ます。現場の所在地、工期、必要人数、工程。金額を早く知りたいなら、この4つを揃えて聞くのがいちばん速い。
1人工の中身を分解する
1人工は、朝8時から17時までを基準にするのが一般的です。この中に何が含まれるかが、会社によって違います。
労務費 — 職人本人の賃金にあたる部分です。
法定福利費 — 健康保険、厚生年金、雇用保険の事業主負担分です。これは会社が法律上負担する費用であり、値引きの対象にしてよいものではありません。建設業では、下請の見積書に内訳として明示する取り扱いが求められています。
交通費 — 現場までの移動にかかる費用です。遠方では別途加算されることがあります。
この3つが「込み」なのか「別」なのかが、会社ごとに違います。同じ金額でも実質がまるで変わります。
見積を比べるときは、まずこの3つの扱いを揃えてください。総額だけを並べて安いほうを選ぶと、後で差額の話になります。
常用と請負は、リスクが誰にあるかが違う
契約の組み方は大きく2つです。教科書的な違いより、止まったときの費用を誰が負担するかで理解したほうが実務に合います。
常用(人工精算)
拘束した日数に対して支払います。何m2出したかではなく、何日入ったかで精算します。
材料待ち、他業種との重なり、天候。作業が止まっている時間の費用は、発注側の負担になります。段取りが悪ければそのぶん高くつく。
向いているのは、作業範囲が固まっていない現場、他業種との調整が多い現場、突貫で人手だけ確保したい現場です。
請負(m2単価など)
仕上げた成果に対して支払います。かかった日数は、請け負った側の責任です。
止まっている時間の費用は請負側の負担になります。そのぶん、見積の段階でリスク分が乗ります。
向いているのは、対象が明確に切れる現場です。「この棟の3階から8階まで、躯体の基準墨と子墨」のように範囲が言えるなら請負にできます。範囲が曖昧なまま請負にすると、どこまでが契約内かで必ず揉めます。
選び分けの目安
範囲が言葉で切れるなら請負、切れないなら常用。これが原則です。迷うということは、たいてい範囲が切れていないので常用です。
安い見積が高くつく経路
金額表に出てこないところで差が出ます。
入る人の技能。 職長クラスが入るのか、指示待ちの人員が来るのか。同じ人数でも、図面を読んで基準を判断できる人が入れば施工管理は他の仕事ができます。そうでなければ張り付いて指示を出すことになり、その時間は見積に載りません。
手戻り。 墨が違えば、その上に載るものはすべて違います。型枠は床の子墨に合わせて建つため、人の判断が挟まりません。誤差はそのまま躯体の誤差になります。壊して直す費用は、墨出しの単価の何倍にもなります。
基準の管理。 階を上げるとき、下階の基準墨を鉛直方向に写します。各階で基準点に戻って確認しないと、誤差が積み上がります。この確認を省いた見積は安く見えますが、上層階で通りが合わなくなったときの費用は別です。
安さの理由を聞いて、上の3つのどれかを削っているなら、それは値引きではなく仕様の差です。
概算を早く知る
具体的な金額は、現場の所在地・工期・必要人数によって変わるため、電話でお伝えしています。市区町村、希望日、必要人数、工程の4つが分かれば、対応可否と概算をその場でお答えできます。